研究プロジェクト
キラルケイ素分子の化学
我々の体を構成する炭素の多くは不斉炭素です.生命現象のほとんどは生体キラル分子の立体化学によって高度に制御されています.これに対して我々は,自然界には存在しない不斉ケイ素を有する「キラルケイ素分子を」設計し,その合成法を開発するとともに,キラル炭素分子と似て非なる特性を活用した新しいキラル医薬品やキラル機能性材料の創出を目指しています.
論文
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Stereoselective Synthesis of Multi-functionalized Chiral Silacyclopentanes(Chem. Lett. 2024)
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Synthesis of Stereoselectively Functionalized Silacyclopentanes (SYNLETT 2017)
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Enantioselective Synthesis of Silacyclopentanes (Angew. Chem. Int. Ed. 2016)
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Catalytic Enantioselective Synthesis of Alkenylhydrosilanes (Angew. Chem. Int. Ed. 2012)
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Asymmetric Synthesis of Chiral Silacarboxylic Acids and Their Ester Derivatives (Angew. Chem. Int. Ed. 2010)
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Enantioselective Synthesis of Silanol (J. Am. Chem. Soc. 2008)
総説
動的キラル分子の化学
エナンチオマー間で熱的に相互変換する動的キラル分子は光学活性体が徐々にラセミ体に変化していくために,合成化学的に応用されることがほとんどありませんでした.これに対して我々は,動的キラル分子の立体化学が柔軟であることを逆手にとり,外的要因によってラセミ体を一方のエナンチオマーに偏らせる「動的不斉誘起法(DYASIN法)」を開発することに成功しました.現在,様々な動的キラル分子を設計,合成してDYASIN法を基盤とする光学活性キラル分子の新しい合成化学を展開しています.
論文
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Synthesis, Stereochemical Analysis, and Transformation of Oxa-[7] orthocyclophene (Chem. Lett. 2022)
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Synthesis and Stereochemical Analysis of Planar-Chiral (E)-4-[7]Orthocyclophene (J. Org. Chem. 2016)
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Synthesis and Structural Analysis of Nine-Membered Enyne Nitrogen Heterocycles (Heterocycles 2015)
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Synthesis, Structural Analysis, and Reaction of 3-Aza-5-[7]orthocyclophyne (Chem. Lett. 2013)
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Planar-Chiral [7]Orthocyclophanes (Angew. Chem. Int. Ed. 2012)
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Synthesis and Stereochemical Behavior of (E)-Cyclononene Derivatives (Chem. Lett. 2011)
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Dynamic Chirality of (E)-5-Cyclononen-1-one and its Enolate (J. Am. Chem. Soc. 2011)
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Enantioselective Synthesis of Planar Chiral Organonitrogen Cycles (J. Am. Chem. Soc. 2010)
総説
2022年のノーベル化学賞の受賞対象となった「クリックケミストリー」は分子合成を劇的に簡便化することで,生化学や材料化学の分野に大きな波及効果を及ぼしました.中でも,Bertozzi博士が開発した生体直交型クリック反応は様々な応用が期待されますが,その鍵となる歪みアルキンが不安定であることに課題が残されています.これに対して我々は,熱的,化学的に安定かつ,適度なクリック反応性を示す1,8-diazacyclononyne(DACN)を設計,合成することに成功しました.現在,代表的なDACN誘導体は関東化学株式会社から市販されています.
クリック反応素子DACNの化学
ケイ素は炭素と比べて高い電気陽性と長い結合長を有し,炭素には無い高配位性やσ–π共役形成能を示すことから,その特性を活用した合成反応剤や機能性材料などがこれまで開発されています.これに対して我々は,ケイ素の特性を活用した効率的な分子変換法を開発し,合成化学的に応用しています.またそれらの反応を活用して,多様なキラルケイ素分子を高立体選択的に合成することにも成功しました.